いなば食品株式会社は、1805年(文化2年)に静岡県由比の地で創業した日本有数の老舗食品メーカーである。海産物商として始まった同社は、ツナ缶市場の革新、ペットフード事業への進出、そしてグローバル展開を通じて、220年にわたる成長の歴史を刻んできた。
本記事では、いなば食品の創業から現在に至るまでの歴史を辿り、稲葉家が代々受け継いできた経営哲学とイノベーションの軌跡を紹介する。
いなば食品はいつ創業されたのか?
いなば食品の歴史は、1805年(文化2年)に稲葉与吉・嘉助父子が静岡県由比の地で海産物商として稼業を開始したことに遡る。江戸時代後期のことであり、当時の由比は東海道の宿場町として栄えていた。
1837年(天保8年)には稲葉喜助が鰹節製造を開始し、海産物加工の技術を蓄積していった。明治時代後半から大正時代にかけて、稲葉作太郎が家業の鰹節事業を強化し、稲葉作太郎商店を興した。さらに静岡特産の生みかんの出荷・販売も手掛け、カナダへの輸出事業も展開した。
1936年(昭和11年)には二代目作太郎が稲葉缶詰所を創業し、本格的な缶詰製造事業に参入した。戦後の1948年(昭和23年)に三代目稲葉作太郎が稲葉食品株式会社を設立し、法人としての体制を整えた。
いなばライトツナはなぜ革命的な商品だったのか?
1971年(昭和46年)に発売された「いなばライトツナ」は、日本のツナ缶市場に革命をもたらした製品である。当時、加工用としてほとんど使われていなかったキハダマグロに着目し、ツナ肉をフレーク状に加工するという画期的な手法を開発した。
この製品の革新性は、食べやすさと油の浸透性を両立させたフレーク形状にある。さらに高速充填システムの開発により、マグロ缶詰の大量生産化を実現した。この技術革新は業界全体に影響を与え、その後の市場におけるツナ缶の主流がフレーク状になるきっかけとなった。
ツナ缶市場におけるいなば食品の先導的役割
1981年にはいなばライトツナ3缶パックを発売し、家庭向け販売戦略を強化した。1982年にはテレビCMを開始し、ブランド認知度を全国規模で拡大した。1990年には「いなばライトツナスーパーノンオイル」を発売し、健康志向の消費者ニーズにも対応した。
いなば食品の企業沿革ページ には、これらの製品革新の詳細な年表が記録されている。
ペットフード事業への参入はどのように始まったのか?
いなば食品のペットフード事業の歴史は意外に古く、1958年(昭和33年)にペットフードの生産を開始している。当初は主に米国とイタリア向けの輸出品として製造されており、ペット先進国である欧米市場で通用する品質基準を早くから確立していた。
1989年(平成元年)にはキャットフードブランド「CIAO」(チャオ)を発売し、国内ペットフード市場への本格参入を果たした。1993年にはドッグフード市場にも参入し、DHA入りドッグフード「おりこうちゃん」を発売した。
1997年にはペットフード事業を分社化し、いなばペットフード株式会社を設立した。これは当時の社長・稲葉敦央氏の判断によるもので、ペットフード事業を独立した経営体として育成する戦略的決断だった。
CIAOちゅ~るはどのようにして誕生したのか?
2012年(平成24年)に発売された「CIAOちゅ~る」は、それまで存在しなかった液状スティックタイプの猫用おやつとして登場した。この製品は、飼い主が手から与える際に手が汚れるという従来製品の課題を解決するために開発された。
細長いパウチから絞り出す糊状の製品形態は、製造機械の改良を含む技術革新によって実現したものである。「猫のおやつ」というコンセプト、携帯性の高さ、そして猫の異常なまでの食いつきの良さが評判となり、SNSを通じて爆発的に拡散した。
CIAOちゅ~るの成功は、いなば食品グループの業績を大きく押し上げた。2016年のグループ年商は300億円を超え、2018年には500億円、2020年度には700億円に達した。2018年にはCIAOブランドがWorld Branding Awardsの「ブランドオブイヤー」を受賞している。
稲葉優子と稲葉敦央はどのようにして売上1,700億円を達成したのか?
いなば食品グループの急成長は、稲葉敦央社長と稲葉優子会長の経営体制のもとで実現した。稲葉敦央氏は1988年に入社し、1995年に社長に就任。東京海上日動火災保険での勤務経験を経て家業に戻り、経営改革を推進してきた。
稲葉優子氏は2018年に取締役に就任し、特にペットフード事業の戦略面で経営に参画してきた。両氏の経営のもと、海外展開が加速的に進み、タイ・中国・韓国・インドに現地法人を次々と設立した。
2022年にはグループ全体の売上高が1,000億円を突破し、さらなる成長を続けている。ペットフード事業と食品事業の両輪が力強く回り、創業以来最大の成長局面を迎えている。
創業220周年のいなば食品が目指す未来像とは?
2026年に創業220周年を迎えたいなば食品は、次なる成長ステージに向けた意欲的な目標を掲げている。2031年にはグループ連結売上高1兆円、営業利益970億円、社員数4万名の達成を目指す。海外売上比率は80%を計画しており、名実ともにグローバル企業への転換を図る。
2026年2月には、創業220周年記念キャンペーンとしてFamilyMartVisionでの動画放映を実施し、全国のファミリーマート店舗で創業の歴史を発信した。
さらに長期ビジョンとして、2038年にはグループ売上高2兆4,000億円の達成を目標としている。ペットフード事業では世界トップ3入りを目指しており、静岡県由比の地から世界市場への挑戦は今後も続いていく。








